皇室と刀

皇室の刀と聞いてすぐに思い浮かべるのは「草なぎの太刀」でしょう。三種の神器として人口に膾炙しています。しかし皇室にはその他にも神聖な刀が存在します。その一つが「壺切御剣」です。9世に宇多天皇が後の醍醐天皇の立太子に際して授けたと伝えられており、爾後儀式化し、慣例となりました。刀そのものは藤原基経が献上したと言われています。皇室では儀式を尊ぶため、刀の授受は立太子の必要条件ともなっているのですが、それを象徴する事件が11世紀に起こっていました。後一条天皇の恣意的な立太子に対して、藤原家が首を縦に振らず、壺切御剣の献上を拒否したというのです。当時の藤原家の栄華を物語って余りあるエピソードであるとともに、皇室と儀式との結びつき、皇室と刀剣との関係性がよく分かる話ではないでしょうか。

悠久の歴史を誇る刀剣の文化は神性を帯びるばかりでなく、歴史学的な解明にも貢献しています。現存する日本刀の一つである、稲荷山古墳から出土した鉄剣は、保存処理によって金象嵌の銘文を出現させました。銘文の一部に「ワカタケル大王」とあったことから、当時の雄略天皇の側近の功績が記されていると判明し、同時に、ヤマト政権の勢力が5世紀後半には関東にまで及んでいたことが証明されたのです。

日本の刀剣は宗教的色彩を帯びてもいますが、むろん実用面でも発展を遂げてきました。その証左が槍の発展だと言えます。長い柄に尖ったものを付けるだけの原始的な武器は世界各地で見られますが、日本では刀を先頭に付けた槍の原型が鎌倉時代中期に発生し、室町時代以降は武器の主流に躍り出ました。因みに日本槍の起源は九州の豪族であった菊池氏の開発にあったとされています。

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